2015/03/29
ハードセル
友人が事故をして結局廃車になり、新しい車を見てまわっていたときのこと。とある車のディーラーさんに午後3時ぐらいに行くと40歳前後の若めの店長さんがじきじきに対応。
大型のディスプレーがある席に案内されて腰掛けると店長さんは、
「今回はそろそろ買い換えようかということで当社の方にお越しいただいたのですか?」
などの世間話程度の話から入ってきた。
友人は通勤に車を使っているので、早急に代わりが欲しかったし、新車であれば現車がなければ多少待たされるのは分かっているから購入した車が届くまで代車のようなものを貸してもらえるかなどの確認したいところなどもあったので正直に話した。
「そうですかぁ、お体大丈夫でしたか?」
さすがはどこのディーラーさんでもこの手の買い替えが少なくはないだろうから第一声はキッチリとこの言葉を返してくれる。
決まり文句と思っていても、やはり気づかってもらえることはありがたい。
「向こうは一時停止無視で前の車のすぐ後ろをそのまま出てきたので、止まりきれずにぶつかりましたけど、エアバッグも開かない程度でしたから大丈夫でした」
と答える友人。
友人は信号の無い交差点で自分の走っている道は一時停止なし、交差している道路は一時停止ありの道路で事故をした。
一時停止側の道を走っていた相手側の車の前に車がいて、一時停止後、友人の車が迫っているので慌てて発進した。
その後ろにいた事故相手の車は、前の車についていくように一時停止せずに交差点内に飛び出してきたのだった。
友人もその可能性を考えてスピードを緩めればよかったものの、前の車が行き過ぎれば後続車は出てくるタイミングではないし、一時停止でもあるからよもや出てこないだろうとスピードを緩めなかった。
そのため事故になったしまったのだった。
「そうですかぁ。ところで本題ですけど、今回はどういった車をお探しですか?」
と店長。
通勤に使っているとはいえ、友人の身入りはそんなに多くは無い。
前も軽だから今回も軽自動車と言うことはほぼほぼ決まっていた。
その旨を伝えると、そのディーラーさんで扱っている軽自動車を大型のディスプレーで説明しだす。
大型のディスプレーは横についているペンライトのようなものでポインティングできると共に、それでタッチパネルのように画面を操作できるらしい。
その説明が最初に入る。
ディスプレーはとても分かりやすく、カテゴリーを絞って『軽自動車』のラインナップだけで見せてもらえたり、そこから各車の詳細に飛ぶこともできて便利だった。
ただ、説明は基本店長さんが主導で行われた。
聞きたいことがあってもスキがなく聞けずに進まれてしまうといった印象。
表示される内容も店長さんが見せたいと思ったところを指し示すとすぐに別の画面に切り替わり、別のセールスポイントを言われるという感じだった。
自分達は、店長に聞かれたことに答えるだけだったが、聞きたいことは後でまとめて聞こうと決めて聞くことに専念した。
長い説明は外が暗くなっても続いた。
しかし、こちらがいろいろな車について値段やらを見たいと言ったせいでもあり、しかたがない。
そして内装とか装備を見るために外に出る。
さすがにここら辺の説明はわかりやすく、聞きたいことも聞けたし、見せてももらった。
ここで、一旦屋内に戻って検討。
すると店長さんが推薦の一台を出してきた。
推薦するのも分かる内容だったし、考えを変更する人もいるのも分かる。
しかし、その車は『軽』ではない。
自動車税が2万円ぐらいになったからと言って、「普通車との差額が2万ぐらいで月で考えたら2千円弱ですよ。それだけ許容できれば、軽よりもずっと安定してますし、軽並みの燃費ですから」という文句にはちょっと胡散臭さを感じてしまった。
それだけではないし、月計算にする意味もわからない。
月で自動車税を積み立てて払う人っているんだろうか?
でも、向こうも商売だし目くじらを立てるほどのことではない。
そして試乗。
3車種に乗ることになった。
興味を持った2車種と、店長が推薦の1車種。
外に出ると店長は、
「今、車出しますんで少々お待ちください」
と走っていった。
いや、車はすぐ出られるところある車が試乗車だって言っていたのにおかしいなと思っていると、その車に乗り込み、道と言うか敷地内の道路みたいなところに出した。
要はまっすぐ行けばここから公道に出られるように車を回したのだ。
乗り降りする時間の方が手間なはずなのに。
まあ、サービスとして快適に試乗できるようにとの配慮なのかなと思い、試乗車に乗り込む。
すると間髪あけずに、
「シートベルトをしっかりとして、安全運転で行きましょうねぇ!」
「はい、そこ車が通ってますから一時停止ですよぉ。右折なんでウィンカーを右に出してくださいね」
道を曲がった途端、
「はい、次は左折ですから左についてくださいね。あっ、すみません。車が止まってますからいったん右の車線に出てもらいますけど、後ろを確認して下さいね。どうですか、安定していませんか? はい、車が過ぎたら左車線ですよ」
「あと300メートルほどで左折ですからね」
「はい、あと200メートル」
「そろそろ、スピードを落としていただいて」
これを3台の試乗の間中いわれまくった。
正直、何もしていない俺でも車がどうのということは頭に入ってこない。
他のどのディーラーでもそんなことは言われなかった。
ちなみにその後、購入を決めたディーラーでは事故の話をしたにも関わらず、「ああ、ここら辺はよく知っていらっしゃるんですね。じゃあ、よろしかったらお二人でご自由にまわっていただいても構いませんよ」とまで言われた。
後日、聞いた話によるとその営業さんは整備の方だったのが、最近営業に転属になったらしい。
そして、「いい車なのでお客様に良さを解って買っていただきたい」と言っていたとか。
それと比較してもしようがないけれど、こちらの店長さんは...。
とりあえず試乗を終えて中に入ると、攻勢がさらに度合いを増した。
「今、決めていただければ」
「本当は無理なんですが、私の方でお客様に融通させていただいて」
「これはまだ内密な話なんですが」
というようなセリフのオンパレードでさらに1時間ぐらい説明が続いた。
友人は他のディーラーでは1回目のディーラーめぐりだったこともあって車種の確認、購入時の代車の件の確認、カタログをもらい、試乗して、帰る意思を示して、アンケートなどがあれば協力して帰るという流れができていた。
今回も「家に帰ってカタログを見ながら検討したいと思います」と何度も言ったのに、「今なら」「早く決めていただければ」などの文句で食い下がられ、同じ説明を何度も聞くことになった。
果てはまもなく発売になる実車もなく、『ナントカ、デビュー!』と書かれた紙切れ一枚のチラシの車を勧められる。
まあ、新しいもの好きはいるからやるなとは言わないけれど、正直、二人とも早く帰りたいと思っていた。
どうにも放してくれないので、店長の言うように見積もりを出してもらうことにした。
しかし、出してきた見積もりにこちらで言っていた条件が反映されておらずに作り直し。
それでも臆せずに店長は、「どうですか? 今の感触としてはどの車が気になっていますか?」
そこのディーラーで買うとはこっちは一言も言っていないのに無理に「これを買います」と言わせようとしているような印象。
止めには「私、かけ引きとはしませんから、買われますか?」とよくわからない攻め方をしてくる。
「すみませんが、もう遅いので帰ります!」
と自分がハッキリ言った後も、しばらく「これではどうですか?」みたいなのを何回か繰り返した後に、やっと住所と連絡先も記入するようなアンケート的なモノを出された。
それを友人が記入しているのを見ながら店長が、
「あー、あの辺りですかぁ、ウチも近いんですよ。いいですよね、あの辺り」
と言っていたがこの時は特に気にも留めずに『早く帰りたい』と思っていた。
やっと解放されたのは、3時間以上経ってからだった。
自分は友人と別れて、帰宅。
『疲れたー』と思いながら夕食の準備をし、夕食を食べ、テレビを見ていた。
すると電話が。
出てみると、さっき分かれた友人だった。
「あのさぁ、ヤツが来たんだけど」
「誰?」
「店長」
「ディーラーの?」
「そう。アポなし」
「いや、アポありでも断ったでしょ?」
「当然。だってついさっき帰ってきたばっかりなのに、『どうですか、お決まりになりましたか?』って来やがったんだって!」
「マジで?」
「マジで!」
「スゲーな!」
「最悪だ」
その後、訪問は無かったが、連日のように電話攻勢もあったらしい。
購入する車を決め、契約し、かかってきた電話でそのことを伝えると明らかな失意が電話越しに伝わってきたらしい。
情熱はすごいけど、人によっては怒鳴り込まれますよ、店長さん!